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原油相場の「下限」はいったいいくらなのか

3月21日(火)15時00分配信 東洋経済オンライン

OPECと非加盟国の間で結ばれた減産合意は今のところ守られている。供給増懸念が取りざたされるが、需要増にも目を向けるべきだ(写真:ロイター/アフロ)
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OPECと非加盟国の間で結ばれた減産合意は今のところ守られている。供給増懸念が取りざたされるが、需要増にも目を向けるべきだ(写真:ロイター/アフロ)
■2月もOPECの減産合意は守られた

 OPECが2月の産油量を公表した。結果から先に言えば、市場の大方の予想に反し、2月も1月に続き、減産が順調に実施されていたことが判明した。多くの市場関係者は、「OPECは一枚岩でなく、抜け駆け増産が行われ、減産は結果的に形骸化する」と指摘していた。しかし、結果はほぼ完ぺきともいえる減産履行となった。

 筆者はこれまで各所で、「OPECの減産合意は価格を押し上げることが目的であり、必ず実施される。OPECは減産に本気で取り組む意向であり、疑いの余地がない」としてきた。結果的に筆者の見立て通りとなっている。

 なぜこのような見方に違いが出るのだろうか。それは、現物需給の調整が市場に与えるインパクトの意味を理解しているかどうかの差であろう。一般的にはアナリストの見方が市場関係者のコメントとして報じられている。しかし、彼らのほとんどが実際のコモディティ取引の経験がない。まして、現物取引の経験など皆無であり、市場に出回る「2次情報」を自分なりに分析・理解して予測を出しているに過ぎない。

 さて、OPECは加盟・非加盟国の協調減産後、2月の月報を発表し、減産が順調に進んでいることを示した。2月の加盟13カ国の産油量は1月比日量14万バレル減の3196万バレルとなった。これには、今回減産を免除されたナイジェリアとリビアも含まれている。この結果、昨年11月30日の総会で決めた上限目標の3250万バレルを2カ月連続で下回った。

サウジが減産主導、長期的になお波乱の芽は残る

 内訳をみると、サウジが979万バレルと、1000万バレルの大台を2カ月連続で下回った。同国が認められている生産上限は1005万8000バレルであり、これを下回っていることは、ある意味でサプライズである。またイラクは同6万バレル減の441万バレルで、生産枠の435万バレルを超過、アラブ首長国連邦(UAE)も4万バレル減の293万バレルだったが、生産枠の287万バレルを超過した。

 一方、減産を免除されたイランは4万バレル増の381万バレルだったが、生産枠上限の380万バレルをわずかに上回った。一部の国は依然として生産枠を上回っており、結果的に、サウジが生産量全体を抑制するために、減産合意の多くを引き受けている。この点は将来に禍根を残す可能性があり、早い段階でイラクやUAEなどが合意に従って減産を履行することが求められるだろう。

■供給だけでなく、需要増にも目を向けよ

 一方、供給量が順調に減少していることから、今後はむしろ需要サイドに目を向けるべきであろう。国際エネルギー機関(IEA)は1月の月報で、2016年の世界石油需要の伸びは前年比日量約160万バレルだったとする一方、2017年は日量約140万バレルと、2016年からは減少するものの、高水準を維持するとしている。

 またIEAは、OPECの減産は過去最大規模と評価し、この減産水準が維持された場合、需要の伸びに伴い、今後6カ月で在庫を日量60万バレル削減することが可能との見方を示している。

 OECD加盟国の在庫は2016年第4四半期に日量80万バレル減少し、3年ぶりの減少幅となっている。 昨年12月末時点での在庫は、中国の在庫と海上貯蔵分は増加したものの、2015年12月以降で初めて30億バレルを下回った。OPECの減産が合意通りに履行され続け、世界の石油需要が想定通りの水準で推移すれば、先進国の石油在庫は2割ほど減少することになる。これはきわめて大きなインパクトである。

 しかし、原油相場の反応は鈍い。その背景には、為替相場がドル高基調で推移していることと、米国のシェールオイルの増産懸念がありそうだ。米国内の石油掘削リグ稼働数は高水準を維持している。しかし、過去最高水準である1609基の4割程度であり、市場はシェールオイルの増産を過大評価している可能性がある。米国が産油量を増やせば原油価格は回復せず、結果的に自らの収益を抑制するだけで、これは過去に経験済みだ。米国内の石油生産者が自らの首を絞めるような増産を積極的に行うとは考えにくい。

米国のシェール増産懸念はないのか?

 IEAのビロル事務局長は、「途上国での消費が高まっているため、石油需要が近いうちにピークを迎えることは見込んでいない」としている。また同事務局長は「短期・中期的に石油製品が他の燃料に置き換えられるとは予想していない」と分析している。また原油安を受けて2年にわたり投資が急減したことから、石油関連企業が新規プロジェクトに着手しなければ、石油供給が滞り、原油相場が大きく変動する可能性があると警告する。

 一方で、2017年には米国のシェールオイル生産が日量50万バレル増加し、過去最高の伸びを記録するとの見通しも示す。ただ世界の石油需要は今年日量140万バレルも増加する見通しだ。50万バレル増加したところで、OPECの減産が実施されれば需給は着実に引き締まる。3月の米シェールオイル生産高の増加率は5カ月ぶりの大きさとなる見通しだが、米国内の石油会社が生産量を増やせば、採算が取れなくなるだけである。つまり、現状の原油価格の水準において、米国の石油会社に学習効果があるのかが試されることになる。

■1バレル=50ドルは「ボトムライン」

 多くの石油会社が1バレル=50ドルでは長期的に生産を継続することができない。こう考えると、50ドルはまさに「ボトムライン」である。今後もし需給調整が進むのなら、50ドル前後で推移している今の水準自体が超割安であることを理解することが肝要だ。

 また長期的には、米国のドル安政策も、ドル建てで取引される原油価格を押し上げることになるだろう。現状では、トランプ政権が掲げる政策が金利上昇・ドル高を招くと考えている市場関係者が多い。しかし、財政悪化が鮮明になれば、むしろドル安が誘発される。これは、過去の共和党政権下でも見られた典型的なパターンだ。

 トランプ政権が製造業に優しい政策を取り、工場などの設備を米国に戻すのなら、米国内の石油需要は増える可能性があり、在庫調整を促すことが想定される。トランプ大統領は「原油価格は高くないほうがよい。40ドルから50ドルが適正だ」としているようだが、今の米国内の石油会社はそのような価格ではやっていけないことを、いずれ理解するだろう。

 またトランプ政権のエネルギー政策では、規制緩和で生産量が増えるとの見方があるが、コストがどの程度下がるのかは不明だ。いずれにしても、安い原油価格は結果的に世界経済にはよくないことが、この数年間で明らかになったことを考慮すれば、市場が再び安い原油を求めるような動きになるとは考えにくい。持続的な石油生産にはある程度の価格水準が必要であり、その水準は少なくとも50ドルではない。この点を十分に理解したうえで、原油市場に対処することが肝要だ。
江守 哲

最終更新:3月21日(火)15時00分

東洋経済オンライン

 

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