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5月予算案からトランプ政権は難しい局面に

3月21日(火)6時00分配信 東洋経済オンライン

トランプ政権への市場の期待が失望に変わるのはいつか(写真:AP/アフロ)
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トランプ政権への市場の期待が失望に変わるのはいつか(写真:AP/アフロ)
 3月15日は重要イベントが重なったが、総じてみれば無難に通過した。

 米国のFOMC(連邦公開市場委員会)では事前予想通り0.25%の利上げが決定された。今回はFOMC直前になって、イエレンFRB(米国連邦準備制度理事会)議長、フィッシャー副議長を含む複数のメンバーが立て続けに3月の会合での利上げを示唆したため、今後利上げペースを速める方針なのではないかとの観測が広がっていたが、経済見通しや金利予想に特段大きな変化はなく肩透かしを食らった格好。焦点となっていたFOMC メンバー17名による政策金利見通しも、2017年の中央値が1.375%と年内残り2回(通年で3回)の利上げが予想されており、昨年12月時点の予想と変わらなかった。結果ドル安が進行したが、「利上げペースは緩やか」とのメッセージが好感され米国株式市場は堅調に推移している。

 同日実施されたオランダの議会選挙も、台風の目となったウィルダース氏率いる極右政党、自由党(PVV)は伸び悩み、ルッテ首相率いる中道右派の自由民主党(VVD)が第1党の地位を死守した。これでオランダのEU(欧州連合)離脱リスクは後退し、今年控えているフランスの大統領選、ドイツの連邦議会選挙への悪影響はなくなった。EU当局者もさぞやホッと胸をなでおろしていることだろう。

 これらのイベントが波乱なく終了したことで市場のリスクセンチメントは良好だ。FOMC後にドルは下落したものの、リスクオンの環境下で1ドル=110円を大きく割り込むような円高にもなりにくい。週足ベースでみれば、ドル円はまだ一目均衡表の雲上限1ドル=111円39銭付近~115円ちょうど付近までのレンジに収まっており、しばらくは110~115円のレンジ内で落ち着く可能性が高いとみている。

■米国「為替報告書」で中国は標的となるのか

 ただ、4月以降は再び様々な波乱要因が控える。筆者が注目しているのは主に次の3点だ。

 第1に米国の「為替報告書」が挙げられる。米国財務省が4月と11月の年2回、議会に提出している文書で、諸外国の経済政策、通貨政策を分析したものである。トランプ大統領が選挙中から「中国を為替操作国に認定する」と再三述べてきただけに、4月の為替報告書で中国が実際に為替操作国に認定されるかどうかに注目が集まる。

 ただ、(1)一部報道によれば、トランプ大統領の経済顧問ステファン・A・シュウォースマン氏が中国を為替操作国に指定しない可能性について示唆している、(2)中国は自国通貨買い介入を行っているのであり、貿易を有利にしようと人民元安誘導を行っているわけではない、(3)為替操作国に認定した場合、米国は中国製品に対して関税を引き上げる可能性があるが、制裁目的の関税引き上げはWTO協定違反になるとの見方が一般的(例外的に認められる場合もある)、などを考慮すれば、4月の為替報告書で早速中国が為替操作国に認定される可能性は低い。

 しかし、1月20日の大統領就任演説をみてもわかるとおり、トランプ政権が「保護主義」に軸足を置いていることは明らかだ。

人民元に端を発するドル円リスク

 3月17~18日にドイツで行われたG20(主要20カ国・地域財務相中央銀行総裁会議)では、米国財務長官として初の国際会議に参加したスティーブン・ムニューシン氏が、「米国は現行体制(自由貿易)の下で悪い条件を押し付けられてきた」と主張。共同声明に「公正な貿易を確実にする」といった具体的な約束を盛り込むことを求めた。

 この主張は認められなかったものの、米国に譲歩する形で昨年のG20共同声明にあった、「あらゆる形態の保護主義に対抗する」との文言は削除された。一方、為替政策については、為替レートの過度の変動や無秩序な動きは経済および金融の安定に対して悪影響を与えるという認識や、通貨の競争的な切り下げを回避するとして、輸出を増やすため意図的な通貨安への誘導を政策の目標にはしないというこれまでの合意を再確認すると、声明に明記されることになった。

 ムニューシン財務長官が今回のG20で主張した「現在の貿易において米国は不当な扱いを受けている」という考えは、トランプ大統領の思考の根底に流れていて、その最大の標的が中国だとすれば、いずれ同国を為替操作国に認定する可能性ははあるかもしれない。この場合、一時的には急速な人民元高が進行するものの、それが中国経済を一段と悪化させるとの見方が広がれば、足元の資本流出に拍車がかかり、最終的には人民元が大幅に売られる可能性もあるだろう。いずれにせよボラティリティーが高まりリスクオフとなれば、ドル円には一時的とはいえ大幅な円高をもたらす公算が大きい。

■仏大統領選、予断許さないルペン候補の支持率

 第2に、4月23日にはフランス大統領選の第1回投票が行われる。最新の世論調査(フランス・テレビジョン、3月3日~8日に実施)の得票率は中道系独立候補のマクロン氏が26%と、2週間前の調査から6%ポイント上昇。極右政党・国民戦線のルペン氏は25%と横ばい。共和党(中道右派)候補のフィヨン元首相は20%と1%ポイント低下し、僅差ではあるもののルペン候補は最近勢いを失っているようだ。一部報道されているルペン候補の秘書給与のスキャンダルなどが影響しているかもしれない。

 仮に、第1回投票でルペン氏が勝ったとしても、決選投票では敗れるとの見方が優勢で、今回のオランダ議会選挙でルペン氏と志を同じくする自由党のウィルダース候補が敗れたことも、ルペン候補にとってはマイナスだ。それでも選挙までまだあと1カ月を残しており、この後支持率の変化を見守る必要があるだろう。と同時に、昨年の英国民投票でも事前の世論調査とは異なる結果となったことを踏まえれば、世論調査を過信することなく警戒しておくべきといえよう。

トランプ政権と議会共和党の対立を注視

 第3は、米国の予算案だ。3月16日にトランプ政権が来年度予算案の概要(A Budget Blueprint to Make America Great Again)を発表した。同提案は「裁量的支出」のみをカバーするいわば「たたき台」。これまで期待されていた税制改革、インフラ投資、財政見通しなどは含まれておらず。正式な大統領の予算案は5月に発表されるとのことで、市場への影響は限定的だった。

 今回の概要のポイントは、環境保護や海外への援助、貧困対策などといった歳出が2~3割削減された一方で、国防関連、軍事費や国境の壁が大幅に増額されている。これまでの主張を踏襲した内容であり、サプライズはない。民主党は当然反対しているが、問題は与党共和党議員の間でも同内容に反対する議員が出始めているという。このままでは議会を通らないため、修正される可能性は非常に高いうえ、トランプ大統領と議会の間の溝が深まるようであれば、予算審議には相当な時間を要するだろう。

■米国の減税や投資が期待外れで市場が失望も

 通常、3月に予算審議が行われ、決議は4月15日が期限だが、減税なども盛り込んだ大統領による具体的な予算案(予算教書)が5月に発表され、これを受けて議会が予算決議案を作成・審議するとなれば、8月の議会休会(recess)までに減税法案を可決することは困難になるだろう。減税法案の可決・成立は早くても9月末から10月初めになる公算が大きい。

 2018年度予算は2017年10月から2018年9月末までだが、減税やインフラ投資の実行が大きく後ずれする、あるいは少額にとどまれば、市場の失望につながるだろう。この場合、FRBの利上げペースも遅れるとの見方から、ドル安が進行しよう。今後トランプ政権と議会とのやり取りには注意したい。特に下院議長のポール・ライアン氏の発言には注目が集まることになりそうだ。

 4~5月のこうしたリスクイベントは、いずれも大きな波乱要因とはならないというのがメインシナリオだが、仮にサブシナリオが実現した場合にはドル円相場や株価にもリスクオフの影響をもたらす公算が大きい。
尾河 眞樹

最終更新:3月21日(火)6時00分

東洋経済オンライン

 

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