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原稿を用意せずに魅力的なスピーチをする方法

3月21日(火)9時15分配信 プレジデント

■原稿を“読む”と“話す”はどう違う? 

 「敗北宣言」が一時話題になった。

 ヒラリー・クリントン氏が大統領選挙でトランプ氏に敗れた際に、何か憑きものが取れたかのようにサッパリとした表情で聴衆に語りかけたものだ。今の分断された社会に警鐘を鳴らし、また若い女性達に向けて生き方の指南ともとれるメッセージを残した。原稿を読むこともなく、自らの言葉を伝える様子は、「これを選挙戦でやっていたら勝てたかもしれない」と思わせる、魅力的なものだった。

 一方、今年に入って安倍晋三首相が「云々(うんぬん)」を「でんでん」と誤読し、「文字が読めないのか」などと騒がれた。真相は定かではないが、これはおそらく“棒読み”していたためだろう。書かれた文章の内容を考えることなく文字面だけ見ていたために、見間違い、読み間違いをしたのではないだろうか。

 安倍氏の姿は、“用意された原稿をそのまま読んでしまった人への罰”のようだった。似たようなことは、記者会見や株主総会といった場面でも起こりうる光景かもしれない。

 ヒラリー氏と安倍首相のスピーチは何が違ったのだろうか。それは、“話した”か“読んだ”かの違いだ。

 「棒読みではなく、血が通ったように話すことが必要です」と話すのは、マツモトメソッド代表取締役の松本和也さん。松本さんは元NHKアナウンサーで、現在はビジネスシーンでのコミュニケーション術を指南している。

 「“読む”というのは、目に入ってきたものを音声化しているだけです。原稿を読んではダメです。目に入ってきたものを脳の中に入れて、自分の言葉として前に向けてしゃべるのが“話す”ということなのです」

 “読む”と“話す”とでは、頭の使い方も大きく違ってくる。
写真・図版:プレジデントオンライン
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写真・図版:プレジデントオンライン
■スピーチ原稿を“書いてはいけない”

 私たち活字媒体の人間が原稿を読み直すときに、3回ほど違う読み方をする。1回目は素読み。内容は考えずに文字などの間違いだけを見ていく。2回目は内容の食い違いはないかなど、中身を考えながら。3回目はどちらも合わせて読む。

 文字面だけを追っていると内容を考えにくく、内容を考えながら読むと文字の間違いを見落としやすい。読み方を変えることで、はっきりと頭の使い方が違うのが感じられる。同様に、原稿の文字だけを見ている読み方では、内容まで頭がまわらず、目に入った文字の“音読作業”にすぎない。これでは、「でんでん」も起こってしかりだろう。

 「本当はスピーチ原稿はないほうがいいです。どうしても読んでしまいますから。もし用意するなら、書いた内容を一旦自分の中に落とし込んで理解する。それから話すようにしたほうがいい」と松本さん。

 実は、このスピーチ原稿こそが「頭の中が真っ白になる」原因だというのだ。

 「原稿を書くから、忘れるんです。だから最初から書かなければいいんです」

 原稿を書くことで丸暗記しようとし、次はなんだっけ……と考えるうちに話はよどみ、挙げ句にスッポリと抜けおちて、思い出すことが出来なくなる。頭が真っ白な状態だ。

 それよりも、自分の言葉で話すべきだという。「たとえば、政治家の方々は選挙の辻立ちなど場数をこなして演説を覚えます。当選回数に応じて、その演説も上手になっていくものです。ところが、いざ国会に出ると下手になる。なぜなら、原稿を読まされて、自分の言葉になっていないからです」

 自分の思いのたけを話すうちは言葉が流れ出てきて、その熱意が魅力的に感じられるだろう。ところが、いざ原稿を持たされると気持ちがこもらない。とはいっても、素人が何も持たずにいきなり話すことなど難しい。ならば、できるだけ自分の言葉で話すために、メモや箇条書き程度の覚書を用意するといいそうだ。

 話をする前の準備として心がけるポイントは、次の通りだ。
■大切なのは一度聞けばわかる伝え方

 「大切なのは、一度聞いただけでわかるように組み立てること」と松本さんは話す。聞き手がわかりやすい話の構成を考え、準備をするときに大切なのは次のポイントとなる。

 [1]話の全体のツリー構造を箇条書きする。(全体地図)
[2]一文を5秒以内にする。(一息で話せる長さ)
[3]5秒を超えるときは、息継ぎをして間を取る。(間あい)
[4]1~2分に一度くらい、話の手がかりのキーワードを作る(記憶の手がかり)
[5]大切な名詞などにマークする(重要語句)
[6]強調したい部分を目立たせて、声を大きくして話す。(声の大小アクセント)
[7]ゆっくり話して、聞くポイントをつくる。(スピードコントロール)

 最初に話のポイントを伝えて聞き手に今日の話の全体地図を渡したら、5秒程度の短いフレーズで話す。これが、一息で話せる長さであり、聞き手も無理なく記憶できる長さだ。大切な名詞をはっきりと伝えたら、あとはスッと話を流せば、聞くべきポイントは際立つ。そして1~2分に一度キーワードを作ったら、聞き取りやすいスピードで、“話す”ようにするだけだ。「えっと」「あの~」といったノイズはできるだけ避けるように心がけたい。

 「プレゼンでは、結論から話すPREP(プレップ)法やSDS法が基本です。でもこれは英語的な発想で、日本語にはない考え方ですよね」

 英語圏では当たり前に教え込まれる“まずは結論”の「PREP」の形、どんなものかまとめてみよう。
■まずは「結論」、ときどき「驚き」で引き付ける

 PREPとは、Point(要点・結論)・Reason(理由)・Example(例)・Point(要点・結論)のこと。まず結論から入り、それをサポートする理由を伝え、例を挙げ、またポイントでまとめるというものだ。

 SDS法は、Summary(要点)、Details(詳細)、Summary(まとめ)だ。どちらも簡潔に内容を伝えられ、説得力を持たせやすい。以前にご紹介したエレベーターピッチなど(http://president.jp/articles/-/11311)、短い時間では特に「結論」から伝え、時間があるなら具体例を挙げて自分の主張を強めていくことが効果的だ。

 こうした組み立ての中で、自分にとってのキーワード、強調したい部分を目立たせるようにメモを作っていくわけだ。ところが、松本さんはこんな風にも話す。

 「結論から話すことを当たり前にするんです。PREPやSDSなんて覚えなくていいです。『何それ? 』と疑問を抱かせて話に引き付け、『実はこうなんです』とちょっとした驚きを与える。その繰り返しだと思えば簡単です」

 では、PREP法を少し簡単にして、私たちが使いやすくしてみよう。

 ●まずは結論(主張を伝える)
●疑問を投げかける(なぜそうなのか? など、相手を引き付ける)
●驚きを与える(実例や数字で、インパクトを与える)
●結論(もう一度主張&相手に具体的な行動を促す)

 元人気アナウンサー松本さんの人を引き付ける話術の基本は「まずは結論」。そして「相手と対話」と「驚きの提示」だ。難しいことなど覚えなくても、これだけで充分に話に引きこめる。

 伝えることは、文章を読むことではなく、自分の考えや想いのたけを相手に理解してもらうこと。目指すのは「一度聞いたらスッキリわかった! 」と思ってもらうこと。自分だけで話すのではなく、相手の反応を生かしながら対話を心がければ、話には血が通って自然とわかりやすく、魅力的になる。そして、きっと成果につながるはずだ。
上野陽子=文

最終更新:3月21日(火)9時15分

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