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プリウスのSUVモデル トヨタ「C-HR」ターボに感じる疑問

2月1日(水)19時00分配信 THE PAGE

 トヨタの新型コンパクトSUV(多目的スポーツ車)「C-HR」の受注が好調です。スポーツ性とデザイン性を意識したC-HRには、2WDで1.8リッターエンジンとモーターのハイブリッド(HV)モデルと、4WDで1.2リッターの直噴ガソリンターボモデルが用意されています。C-HRをどう評価するか。モータージャーナリストの池田直渡氏に寄稿してもらいました。
[画像]TNGA第2弾となるC-HR。売れ筋はハイブリッドだろうが、AWDを選ぼうとすると自動的にターボモデルになる。このターボはエコユニットとして開発されたものだ
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[画像]TNGA第2弾となるC-HR。売れ筋はハイブリッドだろうが、AWDを選ぼうとすると自動的にターボモデルになる。このターボはエコユニットとして開発されたものだ
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 トヨタは昨年12月14日、プリウスのSUVモデルであるC-HRを発売した。トヨタが全力を挙げて取り組むTNGA(Toyota New Global Architecture)第二弾であり、起動間もないプロジェクトの行方を占う重要なモデルである。トヨタにとっては幸いなことに、発売一か月後の受注台数は4万8000台に達した。月販目標台数6000台に鑑みて、どう割り引いても大成功と言える数字だ。

本命ハイブリッドモデルの評価

 先代30型プリウスで、速度制御能力に問題があったトヨタのハイブリッドシステムは、一年前に発売された50型において、大進歩を遂げ、運転することが罰ゲームのようだったプリウスが、普通の範疇に入るようになった。積極的におすすめするかどうかはともかく、少なくとも知り合いが買った時に、口をつぐむ必要はなくなり、燃費のメリットや、リセールバリューまで含めれば、その選択も理解できるところまで来た。
[画像]プリウスと同じハイブリッドシステムだが、セッティングは1年分進歩している。トヨタはC-HRのセッティングをプリウスにフィードバックする予定だと言う
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[画像]プリウスと同じハイブリッドシステムだが、セッティングは1年分進歩している。トヨタはC-HRのセッティングをプリウスにフィードバックする予定だと言う
 そして一年後にデビューした10型C-HRは、この速度制御能力がさらに一歩進んで、現行ハイブリッドモデルの中では間違いなくベストの一台に、Cセグメント全体の中でも比較的上位にランキングできるところまで来た。加減速に関しては、回生制御とブレーキの協調部分にまだ違和感があることだけは書いておきたい。

 ハンドリングの問題も改善された。速度制御能力と同じ様に、30より50。さらにC-HRが良くなった。リヤサスペンションの取り付け剛性不足で、切り返しで舵が効かなくなる瞬間があった30に対し、50はサスペンション形式そのものを変えて根源的に解決した。このサスペンションの熟成が進んで、C-HRではリニアリティ(操縦安定性)が向上した。そもそも燃費のチャンピオンでなくてはならないプリウスが極端な低転がり抵抗のエコタイヤを選ばざるを得ないのに対して、C-HRはタイヤの選びも自由だ。

 エンジニアが「あのタイヤを使わないとJC08燃費がリッター5キロから10キロは落ちます」と言うほど極端に燃費性能に特化したタイヤは当然他の性能が劣る。タイヤの性能をサスペンション側がカバーしなくてはならないプリウスはどうしても不利になるのだ。ということでC-HRはことハイブリッドモデルに関しては、トヨタの戦略上にしっかりポジショニング出来ており、かつその製品の完成度もメーカーの主張する「意のままの走り」と言う言葉がウソになるほどは乖離していない。

社内でブレがある? ターボの考え方

[画像]低重心搭載のため徹底的に小型化された8NR-FTSユニット。1.2リッターの小排気量ターボとしてデビューした
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[画像]低重心搭載のため徹底的に小型化された8NR-FTSユニット。1.2リッターの小排気量ターボとしてデビューした
 ハイブリッドは長らくトヨタのエコ戦略の主力として位置づけられて来たユニットなので、トヨタ全社の中で捉え方が一致している。しかしターボはそうではない。欧州勢が小排気量&レスシリンダー+ターボという戦術を採って来たことへの対抗として登場したユニットだ。エコ・ユニットとして傍流である。そのため、1.2ターボの意味が社内でブレている。これはTNGAの戦略にとってはあまりよろしくないことだと思う。

 C-HRの開発エンジニアが「もっとパワーを出して、マニュアルトランスミッションと組み合わせたい」と言うのを聞いて驚いた。スポーツターボとエコターボはコンセプトが正反対のエンジンなのだ。あのエンジンをその方向で仕立て直すのは無理がありすぎる。

 エンジンが「吸気・圧縮・燃焼・排気」というサイクルで動いているのはご存知だろうが、吸気行程だけを切り出してみれば、エンジンはポンプである。タービンの様な仕掛けであれば、吸気は連続して流れ込む。しかしピストンで吸い込むレシプロエンジンでは吸気は断続的なのでどうしても脈動が起こる。吸い込まれ、止められを繰り返されると空気はゴムボールを潰したり放したりした時のように圧縮と膨張を繰り返す疎密波(そみつは)になる。吸気弁が開いている時に、この疎密波の「密」の部分を吸い込めば効率が上がり、「疎」の部分で吸い込めば効率が落ちる。

 それを調整するのは吸気系全体の体積である。弦楽器が弦の張力で音程を決めるのと同じように、原則的には効率を最高に出来るのは1点だ。つまり1500~5600rpmの全てに合わせて最適化することは物理の支配する世界では出来ない。ただし、弦楽器に倍音があるように、疎密波の反射を上手く使えば、ベースとなる周波数とその倍の2点で最適化できる。この谷間でへこたれたエンジンにしたくなければ、疎の時でも十分にトルクが出るように排気量を増やすしかない。逆に言えば小排気量エンジンの設計は吸気系の容積設計によって、ほぼポテンシャルが決まってしまう。

徹頭徹尾「エコ」のための設計

[図表]トヨタ初の小排気量ターボ8NR-FTSのエンジン性能曲線。 カローラやオーリスに搭載される2ZR-FAEとトルクカーブを比べるとそのフラットさがよくわかる
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[図表]トヨタ初の小排気量ターボ8NR-FTSのエンジン性能曲線。 カローラやオーリスに搭載される2ZR-FAEとトルクカーブを比べるとそのフラットさがよくわかる
 それを何とか出来る可能性がターボにはある。図はC-HRターボの8NR-FTSの性能曲線だが、トルクは1500rpmでピークに達して、4000rpmから落ちて行く。しかもその間はフラットだ。こういうトルクカーブが出来たのは小型のタービンを使って、低回転から十分な過給圧を上げられるからだ。しかし一方で、1500rpmですでにターボの能力が限界に達し、ウェイストゲートを開いて排気のエネルギーを捨てている。そうやって調整しているから4000rpmまでフラットなトルクになっているとも言えるし、ターボのお陰で4000rpmまでトルクがタレずに済んでいるとも言える。

 技術的に見れば、直噴インジェクターによって、吸気を気化潜熱で冷却してノッキングを防止し、その結果、圧縮比を10:1まで高めていることが効率アップの一つのポイントだ。さらに排気を熱交換器で冷却して吸気に戻して再循環させるクールドEGRによって、有効酸素量を減らす設計になっている。排気ガスのような不活性ガスを吸気に混ぜると燃焼温度が下がる。これによって燃焼温度を押さえるとノッキングし難くなり、点火タイミングを遅らせずに済むようになるので熱効率が上がるのだ。
 このエンジンは徹頭徹尾エコのための設計で、設計趣旨をみれば、最大最小ギヤ比の差(レシオカバレージ)が大きい変速機と組み合わせて、1500~2500rpmを保って走らせることによって、燃費を稼ぐことを目的としている。そこから上はおまけだ。

 マニュアルトランスミッションのクルマに乗ったことがある人なら分かると思うが、車両が停止したニュートラルギヤ状態で、レッドゾーン入り口ぴったりにアクセルを踏み込んで調整すると、かなりの踏み込み量になるのはイメージ出来ると思う。この状態でタコメーターの針が静止していると言うことは、その踏み込み量のエネルギーとエンジン内部の摩擦がちょうど釣り合っていることになる。エネルギーが上回れば針は上昇を続けるし、摩擦が上回れば、回転は下がる。つまり針が静止した状態は800rpmであれ5600rpmであれアイドリング(自立運転)なのだ。

 ではその5600rpmキープのアクセル開度を保ったまま(エネルギー量を変えずに)ギヤを1速に入れて走り出せばどうなるかと言えば、クルマは加速する。ギヤを上げて行くと速度はどんどん上がって行き、恐らくは時速50キロ程度まで加速出来るはずだ。エンジンにもよるが、仮にレッドゾーンが5600rpmで、トップギヤでの時速50キロが3000rpmだとすれば、差分の2600rpm分の内部摩擦エネルギーはクルマを時速50キロで走らせるほどのエネルギーだと言うことになる。

 つまりエンジン回転を下げることは、エンジン内部の損失を想像以上に減らすことに繋がる。大型トラックのディーゼルエンジンでは30年前から当たり前の考え方だった。問題は低速でのトルクが不足すると登坂などの時に巡航速度が維持できなくなる。高速巡航で必要なのは空気抵抗と転がり抵抗の和と釣り合う仕事量だ。仕事量はトルクでなく馬力なので、トルク×回転数なのだが、回転数を落としたいのだから、いじれるのはトルクだけなのだ。だからどうしても低速域から十分に過給したいのである。

 低燃費への執念はこれだけでは終わらない。巡航と言ってもパワーが大して要らない場面もある。そこでは1.2まで減らした排気量をさらに減らしたい。何しろエンジン回転はすでに下げられるだけ下げているので、それ以上、回転は下げられない。だから有効排気量を減らすのだ。そのためにEGRを使って、酸素の量を減らす。燃焼を維持できるのはEGRの添加量30%程度が上限と言われている。

 つまりEGRを最大にした時1.2リッターエンジンは30%減の840cc相当まで能力を落とせる。EGRの仕組みは排ガスとも絡んで複雑なのだが、その辺りは別の機会に譲りたい。とりあえず、省燃費目的の小排気量ターボにとって、高回転を求めることとピークパワーの追求は鬼門だと言うことさえ押さえてもらえればそれで良い。

スポーツユニットが欲しい?

 さて、ではスポーツユニットとしてのターボはどう考えるべきか? まずはピークパワーを追求したいので、ターボは大径の大型ユニットを採用する。吸気系を高回転側にチューニングしつつ、過給のチューンも同じく高回転側にする。点火タイミングの遅角を回避できれば当然パワーも出るので、吸気冷却効果のある直噴インジェクターはこちらでも有効だ。

 こうして大径ターボを使うと、排気の量が不足して低速ではタービンが十分に働かない。そこでエンジン排気量を増やして低速トルクを補うか、低速専用の小径ターボを使ったシーケンシャルターボにするのである。ただしシーケンシャルターボを使えばシステム全体の重量が増え、排気量を増やした方が効率が良い場合もある。

 「C-HRにスポーツユニットが欲しい」という気持ちは分かるし、現在小型車にスポーツイメージのクルマが払底しているトヨタの事情もわかるが、素性としてエコユニットとして開発されたエンジンを無理矢理スポーツ用に仕立てるのはあまりにも効率が悪い。本当にスポーツユニットが必要なら新たなエンジンを設計すべきである。

 なぜこういうことが起きたのか? 時期的には微妙だが、昨年4月にトヨタが7分社化し、パワートレインカンパニーが設立されたことと関係があるのかもしれない。パワートレインカンパニーがこのユニットをどういう戦略で設計したのかが、全社的に共有されていないのではないか?

 さてC-HRターボは、出来上がったクルマそのものは決して悪くない。今のところ強引にスポーツ方向に改変したりはしていないからだ。だからこそ、「ターボと言えばハイパワー」という固定概念が強いと物足りないという評価になるだろう。これまで書いて来た通り、本来エコ目的のターボは高速巡航をターゲットにしたものだ。ハイブリッドは加減速の少ないこう言ったシチュエーションでは回生ブレーキという伝家の宝刀の出番が少なく能力が十分に発揮できない。だからこそ低回転で過給して定速巡航した時に価値を発揮するターボが必要なのだ。いっそJC08以外に、時速100キロで巡航した時の燃費をアピールして、C-HRの最も光る場面を訴求した方が良いのではないかと思う。
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■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある

最終更新:2月2日(木)2時58分

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