ここから本文です

独自技術と新たな萌芽 “離陸”する日本の航空宇宙産業

1月14日(土)15時40分配信 THE PAGE

 YS-11以来、50年ぶりとなる国産旅客機への歩み、世界初の独自技術の開発、米航空産業に広がる日本流「ものづくり」の方式――。日本の航空産業は、アメリカ、ヨーロッパに次ぐ「航空第三軸」として、高いポテンシャルを発揮しつつあると、航空ジャーナリストの藤石金彌氏はいいます。東海地方を中心に航空宇宙産業の萌芽も見えつつあります。最新事情を踏まえて、藤石氏に2017年を展望してもらいました。

「MRJ」1号機引き渡しに向け一歩一歩

[写真]MRJ4号機。米モーゼスレイクで(三菱重工)
拡大写真
[写真]MRJ4号機。米モーゼスレイクで(三菱重工)
 昨年10月に東京ビッグサイトで開かれた「JA2016・国際航空宇宙展」では、50年ぶりの国産旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の展示ゾーンが関心を集めた。機体後部モックアップには入場者が列を作り、シートに座ってスリムな機体と敏捷さを体験する入場者も多かった。

 MRJは昨年11月15日、アメリカで行われている飛行試験のため、4号機がモーゼスレイク(ワシントン州)まで機体を移動させる「フェリー・フライト」を実施。晴天が続き、テスト条件が整った当地で1500回の飛行試験を行い、離着陸性能など400項目をチェックしている。

 「安全飛行の基準」を満たしているかを検証・評価する「全機静強度試験」も終了し(同11月1日)、2018年度の国土交通省の「型式証明」取得と、量産1号機の航空会社への引き渡しに向けて歩を進めている。

 しかし、またしても引き渡し日程の延期が取り沙汰されるなど、順風満帆とは言い切れない状況。海外販売に苦慮したYS-11の経験の教訓化と伝承ができていない点や、ユーザーサポート体制構築も急務である。

日本の高い開発力が発揮された「P-1」

[写真]対潜哨戒機P-1(川崎重工)
拡大写真
[写真]対潜哨戒機P-1(川崎重工)
 哨戒機P-1は、海上自衛隊の哨戒機P-3Cオライオンの後継機で、機体サイズはB-737に近く、エンジンはIHI(石川島播磨重工業)が独自開発したF7(-10)ターボファンエンジン4発。

 離陸時推力6.1トンの高バイパス比エンジン(※1)で、コア(中核部分)の技術基盤をステルス実験機X-2用のXF5と共用する。XF5も世界水準の高性能を実現している。こうした低燃費、低騒音のエンジンを単独で開発できるのは目下、アメリカ、イギリス、日本ぐらいだ。

 また、世界で初めて操縦系統に「フライ・バイ・ライト(FBL)方式」を独自開発・採用した。

 航空機の操縦は従来、ワイヤを介して油圧や電動でなされていた。しかし、最近の旅客機などでは、フライ・バイ・ワイヤ(FBW)に変わっている。操縦データは導線を通じてコンピューターに入力され、半自動的に操縦が行われる。それをさらに、導線を光ファイバーに変えたものがフライ・バイ・ライト(FBL)で、電子的干渉を避け、配線の軽量化、消費電力の低減に成功している。こちらもX-2は採用している。

 並行して航空自衛隊の中型輸送機C-1の後継機C-2の開発も進められ、生産数が限定される両機の機体・部品の共通化を機体重量比で15%、システム・部品では75%を達成し、開発の効率化と費用削減に成功した。

 主契約社の川崎重工では、C-2の民間機転用が検討されている。P-1の旅客機化「YPX」は残念ながら進んでいないようだが、日本はジェット旅客機MRJに加えて、中型双発ジェット機C-2と4発ジェット機P-1を自力生産する航空機生産国になっている。

(※1)…ターボファンエンジンのバイパス流と燃焼室に流れる空気の比

事故が相次ぐ「垂直離着陸」機の将来

[写真]MV22オスプレイ(Motoo Naka/アフロ)
拡大写真
[写真]MV22オスプレイ(Motoo Naka/アフロ)
 昨年12月13日夜、アメリカ海兵隊のオスプレイ(MV22)が、沖縄県名護市海岸に不時着・大破した。ハリヤー(AV-8)に次いでオスプレイは、ティルト・ローター(※2)の垂直離着陸(VTOL=Vertical Take-Off and Landing)機として実用化された。初期トラブルや墜落事故が続発し、エンジン騒音がひどく、ヘリパッド周辺や飛行ルート近くの住民からは反対運動が起きてきている。

 ティルト・ローター機は、第二次大戦中にドイツで研究が始まり、戦後アメリカで数世代の実験機を経て、XV-15で基盤技術が確立されて実用機V-22開発が始まった。V-22は2010年代、アフガニスタンなどでの軍事作戦時、特有の厳しい条件下での損失があったのは確かだ。

 一つの技術体系が安定化するには、開発に10数年、運用に10数年はかかるといわれる。1980年代から開発を始めたV-22が、垂直離着陸(VTOL)機能と水平飛行を兼ね備えた航空機としてVTOL機の開発・改良が進み、安全に飛行実績を重ねていく事ができるのかが問われている。

 現在、ヨーロッパで開発中のオスプレイ民間機型AW609は、9人乗りでキャビンが与圧され快適性が高い。JAXA(宇宙航空研究開発機構)が研究を進めている4発ティルト・ウイング機(McART3、※3)は「Door to Door」を目指している。つまり、大型航空機でハブ空港に着いた乗客を、McART3でローカル空港やビル屋上のヘリポート、高速道路サービスエリアに運ぶ構想だ。

 航空の将来構想に「乗りたい時に、乗りたい所から、降りたい時に降りたい所に降りる」がある。VTOL機はそのツールとして欠かせない。

(※2)…(プロペラ)ロ―タが方向を変える方式
(※3)…(プロペラ)ローターと翼が方向転換する方式

安全な航空に先手打つ「落ちない飛行機」

 万一、飛行機が絶体絶命の危機的状態に陥っても、コンピューターがパイロットの能力を超える判断をするという「落ちない飛行機プロジェクト」が進んでいる(東大・大学院工学系研究科鈴木真二教授)。 緊急事態が発生し、打つ手がないような場合でも、(1)トラブルの検知・確認、(2)トラブルに対応したコントロールの再構築、(3)緊急着陸の飛行経路の自動作成――などを行う。トラブル状態の飛行機をAI(人工知能)で誘導・コントロールし、落ちないように安定して飛ばし続ける技術だ。

 また、多くのパイロットにとって事故・トラブル時は、極限のストレス状況に置かれる初めての経験で、「フェーズ4」(※4)という極度の興奮状態になり、正確な判断や行動が期待できなくなる。「落ちない飛行機」のようなシステムが備わっていればパイロット、航空管制官は常に安心感を持って、ゆとりのある安全な仕事ができることになる。

 この流れの中で、富士重工が提案している「空の安全を守る革新技術」は次の3項目にわたっている。

(1)パッシブ・セーフティ(被害軽減)=氷が付かない飛行機、技術損傷を見つける飛行機技術
(2)アクティブ・セーフティ(予防安全)=ぶつからない飛行機
(3)フェイルセーフ・コントロール(落ちない飛行機)=万が一への備え

(3)のフェイルセーフ・コントロールに使われる「対故障飛行制御技術」は、機体構造に配置したセンサーで損傷を検出し、飛行機自体が不都合を見つけ対応を素早く行うというもの。

(※4)…人間の意識レベルを5段階に分ける「フェイズ理論」は、作業にはフェイズ3が一番良いとし、睡眠不足や疲労で腑抜け状態のフェイズ0~2にある時と、極度の興奮状態にある時の4では「見えない、聞こえない、経験がない、考えたことがない」といった状態になり、ヒューマンエラーに直結すると指摘されている
[画像]乱気流事故防止機体技術=ドップラーライダー(画像提供:JAXA)
拡大写真
[画像]乱気流事故防止機体技術=ドップラーライダー(画像提供:JAXA)
 一方、JAXAでは、昨今の旅客機事故の約半数が関わる「乱気流」を素早くキャッチして、回避しようという「Safe Avioプロジュクト」が進み、一部が実用化している。航空安全技術STAR(Safety Technology for Aviation and Disaster-Relief Program)の中の「乱気流事故防止機体技術=ドップラーライダー」で、レーザー光を大気中に発射し、乱気流中のエアロゾル(大気中に浮遊する塵、水分)の散乱光を捉え、乱気流を検知する。

 JAXAが開発している晴天乱気流検知装置(気流計測ライダー=遠距離計測性能世界一)を機体に搭載し、機体前方14キロ(遭遇まで1分間の猶予距離)の乱気流を検知・回避する。

 既に、地上設置型が成田国際空港、東京国際空港、関西国際空港、庄内空港(山形県)などに設置され、乱気流、航空機が発生する後方乱気流の検出などに威力を発揮している。

米航空産業に広がる日本流「ものづくり」

[写真]日本流の製造方式が導入されてきているボーイング・シアトル工場
拡大写真
[写真]日本流の製造方式が導入されてきているボーイング・シアトル工場
 ボーイングを始めアメリカの航空機製造現場では、日本の自動車製造で培われた「ジャスト・イン・タイム」方式が取り込まれている。ボーイング737の製造から導入されたフローライン方式は、いわゆる「トヨタ生産方式」を大胆に導入している。

 既に、ボーイングでは、日本の生産効率化の成果をみて、日本の「5S運動」(整理、整頓、清掃、清潔)に近い、「5S Movement(Sorting,Simplifying,Sweeping,Standardizing,Self-disipline)が取り入れられている。

 川崎重工では、B787の胴体の艤装工程で、作業に必要な部品を一つにまとめ上げ「ジャスト イン タイム」で、組み立て工程に送られる。作業工程ではタブレットに手順と所要時間が表示され、作業者はこれに従って作業を行う。

 これにより、タイムロスなく作業に集中でき、受注から納入までのリードタイムが3分の1に、取り付けミスも大幅に減少した。オートバイ製造で培った方法が航空機製造に転用されたケースだ。いずれのケースも、日本の「ものづくり」が世界標準に近づいてきている動きだ。

 素材面でも、鉄の4分の1の重さで10倍の強度を持つCFRP(Carbon-Fiber-Reinforced Plastic=炭素繊維)を開発・製造した日本勢は、ハイテク・エコ旅客機B787やA350XWB誕生の縁の下の力持ち的役割を演じ、分担生産にも参加している。

 こうしたトレンドを受け、日本の航空技術の開発・生産方式の革新性は、ボーイングの次世代大型旅客機「777X計画」参画でも発揮される。アメリカ、ヨーロッパに次ぐ「航空第三軸」として、アジア・極東のみならず、国際航空機製造分野への大きなポテンシャルとプレゼンスを保持しているといえよう。
[写真]JA2016「国際航空宇宙展」の「クラスターゾーン」
拡大写真
[写真]JA2016「国際航空宇宙展」の「クラスターゾーン」
 今後、日本の基幹である自動車産業で燃料・エンジン部門などでの部材変更・転換が予想される。また、名古屋地区の航空宇宙関連産業の活況に触発され、日本各地では、航空宇宙産業への関心が高まっている。

 参入を目指すグループが、次々と産声を上げ、広域的産業集積を目指し、航空宇宙クラスター構築や、行政的特区の立ち上げが活発化してきている。

 産業クラスターとは、例えばアメリカのシリコンバレーのように、地域の企業と大学、研究機関、自治体などが相互に連携し、新しい事業やイノベーションが次々と創出される状態をいう。

 国際航空宇宙展でも「クラスターゾーン」が設けられ、349社・団体が出展参加し、「航空機産業クラスターフォーラム2016」も開催された。300万点の航空機用部品、装備用品への生産参加を目指して情報交換が活発に行われ、航空宇宙産業という新たな産業の勃興を予感させるものだった。
《参考》
・日経産業新聞10月12日号「川重『二輪流』で一翼」
・戸崎肇(大妻女子大教授)講演「未来のエアライン・未来の空港」 2016.10.15(JA2016)
----------------------------------
■藤石金彌(ふじいし・きんや) 航空ジャーナリスト。音の出る雑誌『月刊朝日ソノラマ』、月刊『安全』『労働衛生』。編集総括:『航空実用事典』(朝日新聞社)、著書『コクピットクライシス』『スカイクライシス』(主婦の友社)、『安全・快適エアラインはこれだ』(朝日新聞出版)、『航空管制「超」入門』(SBクリエイティブ)。元交通政策審議会航空分科会委員

最終更新:1月20日(金)18時13分

THE PAGE

 

【あわせて読みたい】

このカテゴリの前後のニュース

不動産投資コラム(楽待)

ヘッドライン